美容編第11話できることから、理想の明日へ「社長、お時間いいですか。」営業が終わり、最後のお客様を見送ったあとだった。神崎は、一瞬だけ胸が締めつけられた。最近、この言葉を聞くたびに思う。また退職の相談だろうか。「もちろん。」バックヤードの小さなテーブルに向かい合って座る。目の前にいるのは藤井陽菜だった。少し緊張した表情をしている。神崎は心の中で覚悟した。「実は……。」陽...
福 祉 ・ 介 護 士 編番 外 編ここだけの話セミナーがはねたあと、会場の近くの、小さな小料理屋の座敷に、五人が集まっていた。「では、あらためて。おつかれさまでした」池元南が音頭を取り、ビールのグラスが、かちりと触れ合った。登壇のあいだ、背筋を伸ばしていた三人の顔も、一杯目を飲み干すころには、ずいぶんとほどけていた。「……いやあ、壇上ではいい話をしましたけどね」最初に...
福祉・介護士編|あとがきにかえて 選択肢を増やすことが、未来を耕す
福 祉 ・ 介 護 士 編あとがきにかえて選択肢を増やすことが、未来を耕す看護師、保育士、介護士。どの現場にも共通していたのは、「人が足りない」という課題ではありませんでした。本当の課題は、「働きたいと願う人が、働ける場所を見つけられないこと」だったように思います。制度は時に、雛形のように書類を埋めるだけのものに見えてしまいます。キャリアパス加算も、短時間正社員制度も、最初は「国の意図が伝わらない...
福 祉 ・ 介 護 士 編エピローグつながる火種春の午後。地域のセミナーホールに、人が集まっていた。テーマは「多様な働き方と、キャリアの未来」。看護師、保育士、介護士、それぞれの現場から人が集まり、小さな会場が静かな熱気に包まれていた。壇上には、三人の登壇者。病院で週2正社員制度を導入した井上院長。保育園で週2保育士を試みた園長・高梨美穂。そして、介護施設でキャリアパス加算を「人を活かす仕組み」へ...
福 祉 ・ 介 護 士 編第 10 話名前を呼ばれる場所制度は、思ったよりも静かに動きはじめた。最初に手を挙げたのは、森田静江だった。「フルタイムは、もう膝が保たないのよ」と、いつもの強がりを少しだけほどいて。週三日、午前だけの短時間正社員。担当は、新人の教育と、利用者一人ひとりの記録の見守り。長く現場を見てきた目が、いちばん活きる役割だった。「不思議なものね」ある朝、森田が佳代に言った。「時間は...
福 祉 ・ 介 護 士 編第 9 話面会短時間正社員の話を持ち帰ってから、佳代は、まだ迷っていた。続けたい。でも、こんな中途半端な形で、周りに甘えていいのか。責任を果たしきれない自分が、ただ居座るだけになりはしないか。答えの出ないまま、日々は過ぎていった。ある午後、めずらしい来客があった。梅村トメさんの娘だという、五十がらみの女性だった。関東で暮らしていて、帰ってこられるのは年に一度あるかどうかだ...
福 祉 ・ 介 護 士 編第 8 話もうひとつの選択肢数週間後。小さな会議室に、キャリア面談で出た「働いていてよかった瞬間」のカードが並んでいた。「こうして見ると、みんな“誰かに必要とされた瞬間”を大事にしてるんだな」森田がカードを手に取りながらつぶやく。「加算のための報告書じゃなくて、自分たちの言葉が残ってるのがいいな」そのとき、宮本がふいに口を開いた。「…...
福 祉 ・ 介 護 士 編第 7 話動き出す仕組み翌週の職員会議。机の上には「キャリアパス加算 実施計画」という新しい資料が並んでいた。「先日の池元さんと津森先生の話、覚えてると思う」宮本が口を開く。「加算は点数を取るための書類じゃない。人を活かす仕組みだと教わった。まずは、小さな取り組みから始めたい」「小さな取り組みって、具体的には?」佳代が手を挙げる。宮本は少し笑って答えた。「まずはキャリア面...
福 祉 ・ 介 護 士 編第 6 話転んだ日その電話は、送迎の準備をしている最中にかかってきた。母の通うデイサービスからだった。敏子が、トイレの前で転んだという。大きな怪我ではないが、腰を打ったので、念のため病院で診てもらったほうがいい、と。佳代は、受話器を握ったまま、一瞬、目の前が暗くなった。今日は日勤で、代わりのきかないシフトだった。午後の入浴介助も、レクリエーションも、自分が回すことになって...
福 祉 ・ 介 護 士 編第 5 話外からのまなざし会議室のドアがノックされた。落ち着いたスーツ姿の女性と、青いファイルを抱えた男性が入ってくる。「キャリアコンサルタントの池元南さん。それから、社会保険労務士の津森真彦先生です」宮本が紹介すると、職員たちは姿勢を正した。以前、看護と保育の現場でも制度づくりに関わってきた二人だと聞いていた。「加算を“点数を取る仕組み”とだけ考...
福 祉 ・ 介 護 士 編第 4 話答えられない人実地指導の日。市介護保険課の吉岡直樹が、青いファイルを抱えて事務室に現れた。三十代の、生真面目そうな若手だった。吉岡は書類を一枚ずつめくり、チェックリストと照らし合わせていく。研修計画、面談記録、実施報告。整合はとれている。「はい、要件は満たしていますね」と、彼はペンを走らせた。その手際に、宮本施設長がふと口を開いた。「吉岡さん。ひとつ、聞いてもい...
福 祉 ・ 介 護 士 編第 3 話週2の先生夕方の休憩室。送迎を終えたあと、制服の袖をまくった森田静江が、コーヒーをすすりながらつぶやいた。「ボーナスがちょっと増えるって聞いたけど、ほんとかしらね。“施設の運営費に回りました”ってなるのがオチじゃない?」そこへ、入職三年目の田中美咲が加わった。「でも、キャリアパスって言われても、私たちが何か新しいスキルを学べるわけでもない...