第 5 話
会議室のドアがノックされた。落ち着いたスーツ姿の女性と、青いファイルを抱えた男性が入ってくる。
「キャリアコンサルタントの池元南さん。それから、社会保険労務士の津森真彦先生です」
宮本が紹介すると、職員たちは姿勢を正した。以前、看護と保育の現場でも制度づくりに関わってきた二人だと聞いていた。
「加算を“点数を取る仕組み”とだけ考えると、どうしても形だけになってしまいます」
池元は柔らかい笑顔で、会場を見渡した。「でも本来は、人がここで働き続けられるための“キャリア開発”を、仕組みに埋め込む。そういう意図があるんです」
佳代が眉をひそめた。「でも、研修をやればOKって、市の方には言われましたよ」
「それは、最低限の線です」池元はにっこり笑った。「制度の文言だけを追うと、そこで止まってしまう。でも、私はこう読み解いています。──本当は、働く人が自分の未来を描けるように、というところまで意図されているはずだ、と。ただ、そこが現場に伝わっていないんです」
「未来を描く……」
職員たちのあいだにざわめきが走った。そのとき、津森が静かに口を開いた。
「仕組みの観点からも、同じことが言えます」
彼は青いファイルを机に広げた。「たとえば評価制度。“研修に出ました”と記録するだけなら、紙の上の話で終わります。でも、“何を学び、どう仕事に活かしたか”まで共有できる仕組みにすれば、組織全体の力になる」
森田が思わず身を乗り出す。「でも、そんなこと、本当にできるんですか」
津森は笑みを浮かべた。「できます。むしろ、それをやらなければ、加算はただの収入調整で終わる」
池元が続けた。「辞めさせない仕組みではなく、活躍し続けられる仕組み。選択肢を増やして、“ここで働きたい”と思える道を残すこと。それが、キャリアパス加算の本当の意味なんです」
沈黙のあと、宮本が小さくうなずいた。「……やっと、少し見えてきました」
その言葉に、職員たちの胸の奥で、曖昧だった不安が、ゆっくりと形を変えていくのを感じた。──この制度は、ただの書類じゃない。人を活かすための道具なんだ。
佳代は、少しだけ顔を上げた。もし、それが本当なら。──私みたいな人間にも、まだ何か、道が残されているのだろうか。