福祉・介護士編|エピローグ つながる火種

福 祉 ・ 介 護 士 編

エピローグ

つながる火種

春の午後。地域のセミナーホールに、人が集まっていた。テーマは「多様な働き方と、キャリアの未来」。看護師、保育士、介護士、それぞれの現場から人が集まり、小さな会場が静かな熱気に包まれていた。

壇上には、三人の登壇者。病院で週2正社員制度を導入した井上院長。保育園で週2保育士を試みた園長・高梨美穂。そして、介護施設でキャリアパス加算を「人を活かす仕組み」へと転換した、宮本施設長。

「最初は、ただ加算のために始めただけでした」

宮本が語ると、会場から小さな笑いが漏れた。「でも、気づけば職員が、“ここで働き続けたい”と言ってくれるようになった。ああ、これが本当の意味だったんだと」

井上院長がうなずく。「制度は、思いつきでも義務でもない。人の“働きたい”を支える道具だと、私も学びました」

高梨美穂も笑顔を添えた。「週2でも週3でも、名前を呼び、呼ばれる場所があること。それが、子どもにとっても、職員にとっても支えになるんです」

会場の一角で、佐々木佳代が聞いていた。もう辞めるつもりだった自分が、いまこうしてここに座っていることが、まだ少し不思議だった。隣で、森田が誇らしげに前を向いている。

佳代は、後ろの席にいた保育園の若手・古賀陽菜と、目が合った。以前「週2なんて無理」と思っていたという彼女が、そっと笑った。「私、あのときの気持ち、今は少し変わりました」

「うちの田中も、同じでした」佳代も笑い返す。

さらに後ろの席では、病院に復職した佐伯真理が、小さくうなずいていた。「私も、もう一度名前を呼ばれて、ここに立てたから」

それぞれの現場で、それぞれ違う形で始まった小さな制度。でも、根っこは同じだった。──辞めさせる仕組みではなく、辞めなくてもいい選択肢を増やすこと。人を守る仕組みではなく、人が活躍し続けられる仕組みをつくること。

最後にマイクを取った池元南が、会場を見渡した。「制度は、点数や書類のためにあるんじゃありません。人と組織が、もう一度未来を描くための道具です」

津森真彦が、青いファイルを閉じて、静かに笑った。「そして、その未来を形にするのは、ここにいる皆さん一人ひとりです」

会場に、大きな拍手が響いた。窓の外から差し込む春の光が、新しい季節の始まりを告げているようだった。

──あの日、看護の現場で。あの日、園庭で。そして今日、介護の施設で。

ばらばらの物語が、静かに一本の道でつながりはじめていた。未来を耕す小さな火種は、確かに広がり続けていた。

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