福祉・介護士編|第8話 もうひとつの選択肢

福 祉 ・ 介 護 士 編

第 8 話

もうひとつの選択肢

数週間後。小さな会議室に、キャリア面談で出た「働いていてよかった瞬間」のカードが並んでいた。

「こうして見ると、みんな“誰かに必要とされた瞬間”を大事にしてるんだな」

森田がカードを手に取りながらつぶやく。「加算のための報告書じゃなくて、自分たちの言葉が残ってるのがいいな」

そのとき、宮本がふいに口を開いた。「……実は、もうひとつ考えていることがある。短時間正社員制度、って知ってるか」

職員たちがざわついた。「週2とか週3で、正社員……?」

「そんなので、責任が果たせるんですか」

真っ先に声を上げたのは、田中美咲だった。あの日、「週2なんて無責任」と言った顔のままだ。

宮本は静かにうなずいた。「俺も最初は半信半疑だった。でも、今回のキャリアパス加算で学んだだろう。“辞めさせない”んじゃなく、“活躍し続けられる仕組み”をつくることが大事だって」

池元が言葉をつなぐ。「面談で出た“働きたい理由”を、思い出してください。フルタイムでは難しい人もいる。でも、短い時間でも、ここに関わり続けられる仕組みがあれば」

津森が青いファイルを開いた。「評価や責任を“時間の長さ”ではなく“役割”で定義すれば、短時間でも正社員として働けます。加算で始めた仕組みを、そのまま応用できるんです」

森田が腕を組んだまま、ぽつりとつぶやいた。「短い時間でも、正社員……。役に立てる、ってことか」

その横顔を、佳代はそっと見ていた。いつも「昔は根性で続けた」と言う森田が、口では強がりながら、最近は膝をさすっているのを知っていた。フルタイムは、たぶんもう、彼女にもきつい。

美咲が、まだ納得のいかない顔で言った。「でも……週2の人と、毎日いる私たちで、同じ“正社員”っていうのは、なんだか」

池元が、美咲のほうを向いた。「時間の長さで測ると、そう感じますよね。でも、あなたが一番大事にしている瞬間って、なんでしたか」

美咲は、自分のカードに目を落とした。そこには、こう書いてあった。──「泣いてた利用者さんが、私の顔を見て笑ってくれたとき」。

「……時間じゃ、ないですね」美咲は、小さくつぶやいた。「その一瞬に、ちゃんといられるかどうか、だ」

会議室に、夕陽が差し込んでいた。机の上のカードを、金色の光が照らしている。“ありがとう”“支えてもらえた”“また会えてよかった”──そこに並ぶ言葉が、未来へと続く道標のように光っていた。

宮本が、深く息を吸い込んだ。「よし。次は、この施設で本当に“短時間正社員”を動かしてみよう」

福祉・介護士編 各話一覧へ