美容編第9話 時間ではなく、役割で支える「」

美容編

第9話

時間ではなく、役割で支える

「今日は少し長くなるかもしれない。」

営業を終えた店内で、神崎はスタッフ全員を見渡した。

「でも、大事な話だから聞いてほしい。」

ホワイトボードには、大きく三つの言葉が書かれていた。

時間

仕事

役割

「みんなに相談があります。」

神崎はゆっくり話し始めた。

「彩さんに、もう一度この店で働いてもらえないかお願いした。」

店内が静かになる。

「本人からは、『条件付きでお願いします』という返事をもらった。」

陽菜が思わず笑う。

「戻ってくるんですね!」

「まだ決定じゃない。」

神崎も笑いながら答えた。

「でも、そのためには一つ決めなきゃいけないことがある。」

店長の美咲が口を開く。

「役割ですよね。」

「そう。」

神崎はうなずいた。

「週二日だから仕事が少ない。」

「週五日だから仕事が多い。」

「そんな分け方はしたくない。」

津森真彦がホワイトボードに近づいた。

「皆さんに質問です。」

「この美容室で、一番大切な仕事って何でしょう?」

「カット。」

陽菜が答える。

「カラー。」

翼が続く。

「接客。」

「掃除。」

「予約管理。」

「SNS。」

次々と意見が出る。

津森は全部書いていった。

そして振り返る。

「全部正解です。」

「でも。」

「全部、一人でやっていますか?」

みんな首を横に振る。

「そうですよね。」

「美容室って、一人では成り立たない仕事なんです。」

神崎は改めてホワイトボードを見た。

今まで、自分は勤務時間ばかり見ていた。

でも。

店は役割で動いている。

山本翼が話し始めた。

「例えば。」

「俺はカラーよりカットが得意です。」

「陽菜はシャンプーがすごく丁寧。」

陽菜が照れる。

「美咲さんは店全体を見てる。」

「彩さんは、お客様との会話が本当に上手でした。」

その言葉に、美咲もうなずいた。

「そうだったね。」

「指名のお客様、みんな楽しそうだった。」

神崎は初めて気づいた。

みんな違う。

だからいい。

津森が一枚の紙を配った。

そこには「役割シート」と書かれている。

項目は意外だった。

・技術

・接客

・教育

・SNS

・店づくり

・後輩サポート

・商品提案

・イベント

・地域活動

「売上が書いてない。」

陽菜が驚く。

津森は笑った。

「売上は結果です。」

「役割ではありません。」

その言葉に、美咲が静かにうなずいた。

「なるほど……。」

池元が続ける。

「週二日の人も。」

「週五日の人も。」

「役割を持てば、同じチームです。」

「時間ではなく、役割で支え合う。」

「これが、新しい働き方の考え方です。」

神崎はスタッフ一人ひとりの顔を見た。

「彩さんが戻ったら。」

「教育はできる。」

「後輩の相談にも乗れる。」

「お客様とも向き合える。」

「でも閉店作業はできない日もある。」

「それでいい。」

「その代わり。」

「別の誰かが、その役割を担う。」

陽菜が手を挙げた。

「私。」

「SNS、やってみたいです。」

「え?」

「インスタとか好きなので。」

翼も笑う。

「じゃあ俺、技術動画撮るよ。」

美咲も続いた。

「新人教育は、みんなで担当しよう。」

「店長だけじゃなくて。」

店の空気が少しずつ変わっていく。

神崎はその様子を見ながら思った。

今まで。

店を回すことばかり考えていた。

でも、本当に作りたかったのは、

みんなで支え合うチームだった。

ミーティングが終わり、スタッフが帰ったあと。

美咲が神崎に声を掛けた。

「社長。」

「ん?」

「この前、私。」

「公平じゃないって言いましたよね。」

「うん。」

「少しだけ。」

「考えが変わりました。」

神崎は黙って聞く。

「公平って、同じ時間働くことじゃないんですね。」

「それぞれが、自分のできる役割を持つことなんですね。」

神崎は微笑んだ。

「俺も、やっと分かってきた。」

帰り際、店の電気を消しながら、美咲がぽつりとつぶやく。

「なんだか。」

「久しぶりに、この店の未来が楽しみになってきました。」

神崎は静かに店のドアに鍵をかけた。

その扉の向こうには、

今までとは少し違う美容室の未来が、ゆっくりと動き始めていた。

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