美容編
プロローグ
営業を終えた美容室。
最後のお客様を見送り、照明を半分落とした店内。
床には、今日一日で切った髪がまだ少し残っている。
昔は、この時間が好きだった。
静かになった店を眺めながら、
「今日もいい仕事ができた。」
そう思えたからだ。
でも最近は違う。
机の上には、一枚の封筒。
「退職届」
今年に入って三人目だった。
売上は悪くない。
お客様も来てくれている。
スタッフ同士も仲が悪いわけじゃない。
なのに、人だけが残らない。
何が悪いんだろう。
給料だろうか。
休日だろうか。
自分だろうか。
美容師になった頃は、
「いつか自分の店を持ちたい。」
それだけを夢見ていた。
あの頃の自分は、
スタッフが辞める店を作りたかったわけじゃない。
ただ、
みんなが笑って働ける美容室を作りたかった。
それだけだった。