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── 名前をもう一度呼ばれて
卒園式が近づく春。
子どもたちと過ごす何気ない時間の中で、亜紀は「ここにいてほしい」という、何より嬉しい言葉を受け取ります。
園庭の桜が、少しずつつぼみを膨らませ始めた頃。
卒園式の準備で、園内はどこかそわそわしていた。
「石井先生、ここにテープ貼ってもいいですか?」
ひまりが色紙を抱えて、亜紀の前にちょこんと座る。
亜紀はしゃがみ込み、桜の花びらを模した色紙を受け取った。
「いいよ。ここに貼ろうか。」
指をさすと、ひまりは嬉しそうに大きくうなずく。
誰かの名前を呼び、誰かに名前を呼ばれる。
あの頃は当たり前だった時間が、今の自分にまた戻ってきていた。
少し離れたところでは、陽菜が卒園式で渡すメッセージカードを並べている。
「石井先生、来年もいますよね?」
ふいに、ひまりが小さな声で聞いた。
「来年?」
思わず聞き返すと、ひまりは真剣な表情で頷いた。
「また、ここで一緒がいい。」
その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。
週2とか、週3とか。
正社員とか、短時間とか。
そんな肩書きよりも、ここにいてほしいと思ってくれる誰かがいる。
それだけで、この場所へ戻ってきた意味があった。
「……先生も、一緒がいいな。」
自然にこぼれた言葉に、ひまりは満面の笑みを浮かべた。
その様子を見ていた陽菜が、小さく拍手を送る。
「先生、また名前を呼ばれてますね。」
亜紀は少し照れくさそうに笑った。
「そうだね。」
週に2日でも、子どもたちはちゃんと名前を呼んでくれる。
自分の居場所は、勤務日数では決まらない。
必要としてくれる誰かがいること。
それが、もう一度保育士になれた証なのかもしれない。
「週2・週3正社員制度」が保育園に根づき始めます。
一人の復帰から始まった挑戦は、地域の新しい働き方へとつながっていきます。