ふたたび園庭の未来へ 名前をもう一度呼ばれて|第11話 保育士編

ふたたび園庭の未来へ|第11話

── 名前をもう一度呼ばれて

卒園式が近づく春。

子どもたちと過ごす何気ない時間の中で、亜紀は「ここにいてほしい」という、何より嬉しい言葉を受け取ります。

第11話 名前をもう一度呼ばれて

園庭の桜が、少しずつつぼみを膨らませ始めた頃。

卒園式の準備で、園内はどこかそわそわしていた。

「石井先生、ここにテープ貼ってもいいですか?」

ひまりが色紙を抱えて、亜紀の前にちょこんと座る。

亜紀はしゃがみ込み、桜の花びらを模した色紙を受け取った。

「いいよ。ここに貼ろうか。」

指をさすと、ひまりは嬉しそうに大きくうなずく。

誰かの名前を呼び、誰かに名前を呼ばれる。

あの頃は当たり前だった時間が、今の自分にまた戻ってきていた。

少し離れたところでは、陽菜が卒園式で渡すメッセージカードを並べている。

「石井先生、来年もいますよね?」

ふいに、ひまりが小さな声で聞いた。

「来年?」

思わず聞き返すと、ひまりは真剣な表情で頷いた。

「また、ここで一緒がいい。」

その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。

週2とか、週3とか。

正社員とか、短時間とか。

そんな肩書きよりも、ここにいてほしいと思ってくれる誰かがいる。

それだけで、この場所へ戻ってきた意味があった。

「……先生も、一緒がいいな。」

自然にこぼれた言葉に、ひまりは満面の笑みを浮かべた。

その様子を見ていた陽菜が、小さく拍手を送る。

「先生、また名前を呼ばれてますね。」

亜紀は少し照れくさそうに笑った。

「そうだね。」

週に2日でも、子どもたちはちゃんと名前を呼んでくれる。

自分の居場所は、勤務日数では決まらない。

必要としてくれる誰かがいること。

それが、もう一度保育士になれた証なのかもしれない。

次回 第12話(最終話)

「週2・週3正社員制度」が保育園に根づき始めます。

一人の復帰から始まった挑戦は、地域の新しい働き方へとつながっていきます。