ふたたび園庭の未来へ 制度を考える人たち|第6話 保育士編

ふたたび園庭の未来へ|第6話

──制度を考える人たち

「週2で正社員」という言葉に、現場はまだ戸惑っていました。

その不安を置き去りにしないために、高梨園長は二人の専門家を招きます。

第6話 制度を考える人たち

「週2で正社員……どういうことですか?」

陽菜の問いに、高梨美穂は少し深呼吸をしてから口を開いた。

「ただのパートさんじゃなくて、ちゃんと役割と責任を持ってもらう“短時間正社員”という形にしたいの。」

「でも……短時間で責任って……。」

陽菜はまだ納得できない顔で、視線を亜紀に向けた。

亜紀も思わず目を伏せる。

頭ではわかりたいと思っている。

けれど、胸の奥では自分自身もまだ整理しきれていなかった。

週2で働く。

それは、どこまでを任されるということなのだろう。

どこまで責任を持てるということなのだろう。

「だから、専門家にも入ってもらうことにしたの。」

美穂がそう言って、後ろのドアを振り返った。

「どうも、お邪魔します。」

声と一緒に入ってきたのは、柔らかい雰囲気の女性と、スーツ姿の男性だった。

「キャリアコンサルタントの池元南さんと、社会保険労務士の津森真彦先生。」

池元はやさしく会釈し、津森は少しかしこまって頭を下げた。

「私は、職場のみなさんが安心して“戻れる仕組み”をつくるお手伝いをしています。」

池元の言葉に、陽菜が少し首をかしげた。

「戻れる仕組み……ですか?」

「はい。」

池元はうなずいた。

「戻りたいけれど戻れない人は、実はたくさんいます。子育て、介護、体力のこと。理由は人それぞれですが、働きたい気持ちは残っているんです。」

亜紀は思わず顔を上げた。

まるで、自分のことを言われているようだった。

「だから、その人が安心して働ける役割を、一緒に考えることが大切なんです。」

池元の声は、制度の説明というより、人の話をしているように聞こえた。

続いて、津森が静かに口を開いた。

「短時間正社員という制度は、勤務時間が短いだけで、責任まで軽くなる制度ではありません。」

陽菜が少し驚いたように聞き返す。

「責任は同じなんですか?」

「責任はあります。ただし、その責任の範囲を最初から明確に決めるんです。」

津森はテーブルに置かれた資料を指さした。

「週5勤務の先生と同じ仕事を、週2勤務で全部やってください、という制度ではありません。」

陽菜は黙ったまま、資料に目を落とした。

「週2だからこそ任せられる役割を決める。何を担当し、どこまで共有し、どこからは引き継ぐのか。それをはっきりさせるから、お互いに安心して働けるんです。」

亜紀の胸の奥で、少しだけ何かがほどけた気がした。

全部を抱えなくてもいい。

けれど、何も持たなくていいわけでもない。

自分にできる役割を、きちんと持つ。

それなら、もしかしたら。

美穂が、二人を見渡して静かに言った。

「私は、人手不足だから制度を作りたいんじゃないの。」

少し間を置いて、言葉を続ける。

「辞めてしまう先生を、ただ引き止めたいわけでもない。」

陽菜が顔を上げた。

「“働けない”んじゃなくて、“働き方がなかった”。そういう人を、一人でも減らしたいの。」

休憩室に、静かな沈黙が落ちた。

お茶の湯気が、ゆっくりと揺れている。

「……なんだか、少し分かってきた気がします。」

陽菜が小さくつぶやいた。

美穂はほっとしたように笑った。

「今日は答えを出さなくていいの。みんなで一緒に考えていこう。」

その言葉を聞きながら、亜紀はもう一度、目の前の資料に視線を落とした。

週2で正社員。

まだ不安はある。

でもそれは、ただ時間を短くする話ではないのかもしれない。

誰かが、もう一度戻れる場所をつくる話なのかもしれない。

次回 第7話

制度が動き始め、亜紀はいよいよ週2勤務をスタートします。

しかし現場では、「特別扱い」という視線や戸惑いが待っていました。