── 迷いを家に連れて帰る
保育園での言葉を胸に抱えたまま、亜紀は家へ帰ります。
何気ない家族の一言が、「また働く」という選択を、少しだけ現実のものにしていきます。
「おかえりー。」
夕方、買い物袋をぶら下げて帰宅すると、リビングから中学生の長男が顔を出した。
ソファには、ゲーム機とプリントが散らかっている。
「何かあった?」
「別に。」
そっけない返事に、思わず笑ってしまう。
子どもは大きくなると、嬉しいことも心配なことも、なかなか口にしなくなる。
スーパーの袋から野菜を取り出しながら、今日の保育園でのやりとりがふと頭をよぎった。
週2とか、週3とか。
子どもたちと一緒にいる時間が短くても、先生としてやっていけるのか。
「久しぶりにお願いします」なんて言われて、すぐに自分が“できる側”に戻れるのか。
「ママ、今日、どこ行ってたの?」
冷蔵庫を開けようとした長男が、何気なく振り返る。
「んー、保育園にちょっとね。」
「また働くの?」
ドキリとした。
思わず野菜を落としそうになる。
「働くっていうか……まだ、わからないよ。」
「ふーん。」
長男はそれ以上、何も言わなかった。
でも、その何気ない一言が、亜紀の心の奥をそっと揺らした。
“また働くの?”
大きくなった子どもの背中を見ながら、もう一度、自分が誰かの名前を呼ぶ場所に戻れるのかどうか。
考えがまとまらないまま、亜紀は水を張ったボウルの中で、落としたピーマンをそっと拾い上げた。
園長から、あらためて「戻ってきてほしい」と伝えられる亜紀。
けれど現場では、週2勤務への不安の声も上がり始めます。