── 園庭に戻る日が来る?
夏祭りでの再会から数日後、亜紀は久しぶりに保育園を訪れます。
そこで高梨園長から、週2・週3という新しい働き方を提案されます。
翌週、町内会の集まりのついでに寄った保育園の玄関で、石井亜紀は少し落ち着かない気持ちで立っていた。
「石井さん、来てくれてありがとう!」
園長の高梨美穂が笑顔で手を振って近づいてくる。
地域の夏祭りでの再会から、ほんの数日しか経っていないのに、なんだかここが急に遠くて近い場所になった気がする。
「先生って呼ばないでくださいね。」
亜紀は思わずそう言った。
美穂はクスッと笑って首を横に振る。
「呼んじゃうかも。だって石井さん、子どもに声かけてるとき、やっぱり“先生”だったもん。」
玄関を通り過ぎると、園庭から子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてきた。
砂場の横で泣いていた子が、若い保育士に抱きかかえられている。
「今、ちょっと人手が足りなくてね。」
美穂は少しだけ声を落とした。
「週5じゃなくていいの。もし石井さんさえ良ければ、週に2日でも、3日でも。“ちょっと手伝う”じゃなくて、“先生”として、戻ってきてくれない?」
——週2、週3で?
思わず聞き返しそうになって、言葉が喉の奥で止まった。
フルタイムじゃなくていい。
全部抱え込まなくていい。
それでも、ここに立っていいのだろうか。
「急には無理だと思ってる。でも、考えてくれるだけで嬉しい。」
子どもたちの笑い声が、風に乗って亜紀の背中を押していく。
思わず園庭を見つめる自分に気づいて、少しだけ恥ずかしくなった。
——戻ってもいいのかな。
胸の奥で、ずっとしまい込んでいた言葉が、小さくつぶやかれていた。
久しぶりに園庭へ立つ亜紀。
子どもから「先生」と呼ばれた瞬間、胸の奥にしまっていた気持ちが動き始めます。