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──キャリアと制度の物語
『ふたたび園庭の未来へ』の裏側では、保育士たちの想いだけでなく、キャリアと制度を支える人たちも動いていました。
ここでは、池元南と津森真彦、それぞれの視点から「週2正社員」という働き方を支えたものを振り返ります。
「何のために生まれて、何をして生きるのか。……って、ちょっと大げさに聞こえますよね。」
石井亜紀が初めて面談で聞かれたとき、思わず笑ってしまった。
子育てと町内会の役だけで手一杯だった自分に、そんな“人生の問い”がまだ必要だとは思っていなかったからだ。
池元南は、園長の高梨美穂に呼ばれてこの園に入ったキャリアコンサルタントだった。
ただの制度説明係ではない。
職場の仕組みと人の気持ちの間に、ちゃんと階段を置く人だった。
「働き方を変えるっていうのは、“生き方を少しずつ組み替えていくこと”なんです。」
そう言いながら、池元はいつも面談で聞いてくる。
「何が好きですか?」
「何が苦手ですか?」
「何を残したいですか?」
大人になってから改めて聞かれると、簡単に答えられる人なんていない。
だからこそ、亜紀は言葉を探しながら思い出した。
名前を呼ばれて、子どもと向き合っていたあの時間が、自分にとっては“生き方”の一部だったことを。
池元は面談を終えるたびに、園長とも小さな会議をする。
「個人のキャリアを耕すことは、園全体を耕すことだから」と。
誰か一人が戻るとき、一緒に働く全員が少しずつ、気持ちの居場所を見つけ直していく。
それが、池元南というキャリアコンサルタントの役割だった。
「働きたい人がいるなら、その働き方を支える仕組みをつくるだけです。」
津森真彦は、いつもそれを淡々と言う。
どこか机上のルールに聞こえるけれど、石井亜紀は、その裏にある“人”を大事にしていることをすぐに感じ取った。
「短時間正社員って、みんな特別扱いだと思うんです。」
初めての会議で、若手保育士の陽菜がそう言ったときも、津森はにこりともせずに答えた。
「特別に見えるなら、設計が足りないんです。」
週2でも週5でも、責任を果たせる役割を作ること。
働く側が「制度に守られている」と思えること。
そのために津森が持ってきたのは、就業規則の改訂案と、ITツールの提案だった。
「引き継ぎは紙だけじゃなくて、オンラインで共有すればいい。週2勤務なら情報が要ですから。」
制度を形にする人は、頭でっかちだと思われがちだ。
けれど津森は、昼休みの雑談で「子どもが熱を出したとき、自分も会社に言えなかった経験がある」と話してくれた。
就業規則に人間味は書けない。
でも、その行間にちゃんと人の都合を入れるのが、この人の仕事なのだと亜紀は思った。
「働く人と、経営する人。どちらかだけが得しない制度を。」
津森真彦が最後にそう言ったとき、小さな保育園の掲示板に、新しい働き方の種がまた一つ芽を出した。